天井

体育

スピーカー

天燈鬼・龍燈鬼の筋肉はかなりリアルです。前腕の形などは、普通にトレーニングしたのではなく、ねじる、ひねるという力が強い筋肉の付き方をしています。

天燈鬼・龍燈鬼=六田知弘撮影

国宝 天燈鬼立像(右)・龍燈鬼立像(左)
龍燈鬼立像:康弁作
鎌倉時代・建保3年(1215)奈良・興福寺蔵
写真:六田知弘

相撲に詳しい方にうかがうと、平安時代ごろから神前相撲があったそうです。けれど、運慶がいた平安末期から鎌倉時代初期になっても、今のような円形の土俵はなかったようです。つまり押し出しという決まり手はなくて、モンゴル相撲に近い形だったのではないでしょうか。相手を倒したり、ねじ伏せたりする能力にたけた力士がいたでしょう。仏師は、そういう人の体を見ながら造っていったのだと思います。

天燈鬼の腕=六田知弘撮影

持ち上げる、ねじる、ひねるという力は、持ち上げにくいものを持ち上げて初めて養われます。現代的なトレーニングの方法論、バーベルやダンベルのように持ち上げやすい形のものを使っていては、そうした動きに合う筋肉はつきません。持ち上げづらいもの、例えば米俵を持ち上げるようなトレーニングが必要です。

持ち上げにくいものの究極が人間です。人間は重心が変化するので、動く相手を捕まえて持ち上げるのは大変です。こんな体つきになるには、人間をいろんな方向に持ち上げようとしないといけません。

背中、尻、太ももが盛り上がった龍燈鬼の後姿=六田知弘撮影

それにしても、天燈鬼・龍燈鬼のお尻はみごとですね。大臀筋が発達しているうえ、その内側にある中臀筋もよく発達している。中臀筋が立派なのは、脚を横に上げる能力が高いということです。

ふくらはぎは意識して鍛えている感じではないですが、上部の腓腹筋より、下部側、奥の方にあるヒラメ筋が発達していて、全体的に太いです。ヒラメ筋は持久的に力を発揮して、姿勢を維持します。全体が太いということは、跳んだり跳ねたりという能力より、地面をつかみながら前進するようなことにたけた、ふくらはぎと言えます。サラブレッドより農耕馬的な脚といえばいいでしょうか。

足の指も、しっかり地面をつかもうとしているようです。足指把持力、足の指で地面をつかむ力が弱くなると、姿勢の安定性が悪くなり、転倒しやすくなることがわかってきています。地面をつかむ足指の力はとても大事です。
上半身も背中、広背筋がよく鍛えられています。引き付ける力が強い証拠です。そのためには懸垂が一番ですね。

龍燈鬼は足の指でしっかり地面をつかもうとしている=六田知弘撮影

私たちがこんな筋肉をつけるには、現代的トレーニングである程度の筋力をつけたうえで、バランスの悪い状態で筋力をつける鍛え方が必要でしょう。

現代のマシントレーニングは、1980年ごろから普及しました。誰でも手軽に鍛えられるようになったのですが、かえってケガをしやすくなった。持ち上げやすいものに慣れて、持ち上げにくいものを持ち上げた時にケガをしてしまうのです。

そこで2000年以降は、昔に戻ろうという動きが広まっています。
例えば、やかんのような形をしたケトルベルという重り。これは、重りを握る手から離れたところに重心があるので、ダンベルより扱いにくいです。それによって、手首やひじも強化し、筋肉を鍛えましょうということですね。また、バランスディスクの上で重りを持ち上げて、関節、体を安定化させる身のこなし方を身につけようという鍛え方もあります。

天燈鬼・龍燈鬼のモデルが、バーベルを持ち上げて競ったら現代の選手にかなわなかったでしょう。でも、人間を持ち上げて競ったらさぞ強かったでしょうね。筋肉だけがごつごつしているのではなくて、関節も骨もごつごつしています。

最近注目されている体幹は大事な部分ですが、体幹ですべてが動くわけではありません。強くてダイナミックな動きをするのはやはり、足からお尻にかけての筋肉です。お尻の筋肉がこれほどあれば、すごく強い股関節の力が発揮できるわけです。

最終的には腕で相手をねじ伏せるわけで、足の力を腕に伝えるためには体幹がしっかりしていなければいけないとは言えます。力やエネルギーを伝達する強さや安定性は必要です。
ですが、そもそも足が弱い人が体幹ばかりを鍛えても強くなりません。強い足やお尻をつくることが前提です。

現代人が足と尻を鍛える基本はスクワット、立ち上がり動作です。太ももの前と後、お尻にかけての筋肉がついてきます。相撲の四股をいっぱい踏むと、こういう足に近づいてくると思います。

高く足をあげる四股は難しいですが、腰を深くじっくり落としてじわじわ立ち上がるようにすれば、大臀筋が鍛えられます。また、足を横に上げると、大臀筋の奥にある中臀筋が強くなりますよ。

教壇

Our Classes運慶学園の授業

美術

全3回

みうらじゅん先生

サムネみうら

すごいぞ、運慶

『見仏記』でおなじみのみうらじゅんさんが縦横無尽に運慶について語る美術講座。

歴史

浅見 龍介先生

和田 彩花さん

サムネ 和田

鎌倉彫刻史と運慶

学園生徒・和田彩花さんが東京国立博物館研究員の浅見龍介氏に話を聞きます。

宗教

興福寺貫首

篠原 ともえさん

サムネ 篠原 貫首

僧侶・運慶

学園生徒・篠原ともえさんが多川俊映興福寺貫首に話を聞きます。

体育

石井 直方先生

サムネ 石井

天燈鬼・龍燈鬼の筋肉を科学する

運動生理学が専門の石井直方先生が、天燈鬼・龍燈鬼立像の筋肉について解説します。

運慶展公式サイトはこちら